ドクターブログ たくさんの小さな光に囲まれて

地域医療の日々~たくさんの小さなキレイな光に囲まれて~

カテゴリー:地域で医療する楽しさ 更新日時 2022/02/02

 

独居の90歳越えの女性がいる。若くして夫を喪ったその方は巧まずして人に心を寄せることのできる素晴らしい方だ。だから、彼女の周りには常に人がいて、そして笑いが絶えない。とはいえ、その暮らしぶりは決して恵まれているとは言えない。真冬にはストーブを焚いていても部屋の隅に氷が張るような家にずっと住んでいた。それでも、その方の家に行くと私の心は暖かくなり、なんとも言えない感じでほどかれる。医者という立場で患者さんを気遣うのが私の立場なのであるが、彼女は一番に私を気遣ってくれる。「せんせ~ 元気にしてたかい? 働き過ぎて疲れていないかい?」

 

 単なる挨拶ではなく、親身に私を気遣ってくれるのがわかる言葉かけである。

 

それだけで私はちょっと泣きそうになる。患者さんのこと法人のことスタッフのことを気にかけるばっかりの私はたぶんちょっと気にかけられることに飢えているのかもしれない。無条件の優しさの前で心がゆるんでくるのがわかる。

 

前理事長で私の夫が亡くなったとき、外来で多くの方たちがお悔やみの言葉を下さったり、気を使ってその話題に触れないようにしてくれたりした。その中で、彼女は目に涙を浮かべて「先生が可哀想だ可哀想だ」と言って手を握ってくださった。親切な近所のおばさんのような親戚のおばさんのような暖かい立ち位置に私は心から感謝した。

 

毎日上げるという般若心経はいつもとてつもなく流暢で、どれほどの回数重ねてきたかがわかる。苦労の多い人生を越えてこられたその方は、お経に自分の心を委ねてこられたのだろうということがわかる。そして、だからこそ他者の心の痛みに寄り添えるのだろうと言うことも。

 

人は学歴や財産やましてや見てくれではなく、どのように自分の運命と向きあい誠実に毎日を生きてきたかで価値が決まるのだろうなと思う。そして、人には運と不運があるけれど、幸と不幸は自分で選び取るのだということも。車いすになったけれど、いつも幸せそうに笑っている。90歳を超えているのに若々しい話し方と笑顔で周りを元気にしてくれている。私は彼女からの学びを大切に真摯にがんばろうと思えるのだ。

 私の生きる目標、人生の大先達である。 

 

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