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幸せな出会い

カテゴリー:地域で医療する楽しさ 更新日時 2011/02/02

 あっという間に1月が過ぎてしまいました。日々の仕事は忙しく、時間だけが慌ただしく流れていきます。
 辛かったり、悔しかったりしたことはなるべく忘れて、嬉しかったこと励まされたことだけを憶えていたいのですが、凡人の悲しさで、ともすれば逆のパターンで記憶が残っていくことも少なくありません。

 というわけで、今回はこの年末年始でささやかに嬉しかったことを、書いてみようと思います。

 仕事納めの12月29日の午後、休診なのにもかかわらず、患者さんが来られました。おなじみのさとさん(仮名)です。
 さとさんは、20年前から通よってこられているおばあさんで、今年90歳になります。その頃からの症状は、ず~~~っと、体の左がしびれて「びりびり」する、おなかが張る、でした。ひとしきりしびれる症状が続き、それが治まると便が出ない、おなかが張る、が続きます。
 とはいえ、確かに便はいつもたまり気味だし、一回は本当にイレウスにもなったこともあるし、年齢から言っても脳梗塞は起こりうるので、それらの症状を強く訴えられると何らかの対応をせざるを得ない患者さんです。
 14年前連れ添いに先立たれました。症状は悪くもならず、減りもしなかったけれども、変わりませんでした。その後も一人で暮らされていて、数年前にケアハウスに入りました。
 生活環境が様々に変わっても、それらの症状はじわ~~~と続いてきています。普通の病院なら、愁訴の多い、面倒な患者さんと思われる可能性も少なくありません。
 でも、私たちは日々の生活の不安を症状で表現している、そのおばあさんの心に寄り沿おうと考えています。そう考えると、一つ一つの症状に心を込めて対応してあげることと同時に症状の裏にある彼女の寂しさや不安に向き合ってあげることの大切さに思い当たります。
 29日もそうでした。
 「からだがビリビリして、歩けない」
 丁寧に診察し、麻痺のチェックをし(しなくても診察室に入ってくる歩き方で、麻痺がないのはわかっていましたが)、ビタミンB群の注射をしました。すると、それまで、額の上で八の字を書いていた眉が開きました。
 「明日から、ずっと休みになると思ったら、心配になって。私がこの年になっても(ひとりぐらしで)いられるのは、先生たちがいてくれるからだから。先生たちのおかげで生きられるのです。これからもよろしく頼みますね。本当に本当にお願いします」
 「大丈夫ですから。何があっても私たちはさとさんの味方ですから。正月でも、夜でも、いつでも来て良いですからね」
 彼女の顔に笑みがこぼれました。
 そして、私の胸の中に暖かなものが流れ込んできました。こんなに素直に頼られていることのうれしさでした。
 
 年をとるということは、明日何があるかわからないようなことで、いつ割れるかわからない茶碗で茶を飲んでいるようなものだ、と言ったおじいさんがいます。
  そうした根元的な高齢者の不安をきちんと拾い上げられる私たちでいたい。どんな些細な不安や、とるに足らない症状も心おきなく訴えることのできる医療者で いたい、そして、死ぬ時はここの病院で、ここのスタッフに見守られて・・・・と思って貰える病院でありたいと強く思ってやってきました。
 この町で、医療を続けてきて、祖父から数えて78年、私がここに来て25年以上が過ぎました。
 多くの患者さんやスタッフと支えて、支えられて、励まして、励まされてここまで来たように思います。さとさんの言葉はまさに、地域で働く私を励ましてくれる力となりました。
 
  25年前、私は足寄で医療を始めました。未熟だったし、迷いもあったし、時には愚痴もこぼし、イライラしてスタッフに八つ当たりしたこともありました。で も、とにかく、31歳の7月から、私は私の与えられた仕事ーー地域の患者さんと向き合うこと、スタッフを幸せにしたいーーを一所懸命してきたと思っていま す。
 だから、胸を張ってこれからもこの町で、この病院でがんばれそうな気がするのです。地域の皆さん、スタッフの皆さん、というわけで今年も、よろしくお願いします。

「嵐」と「瞑想」  「我妻病院へ帰る!」

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