ドクターブログ たくさんの小さな光に囲まれて

限りある命。だからこそ

カテゴリー:ターミナルケア  更新日時 2008/08/15

 今日はお盆です。足寄町は花火大会と盆踊りが行われています。
我妻病院のデイ ルームには、一年のたったこの一日のために東を向いて大きなテラスと窓を作りました。休みなのに出てきてくれたスタッフと出勤しているスタッフとで助け合 い、ベッドや車いすで患者さんに出てきてもらったり、出てこられない患者さんのベッドの位置を花火の見えるように変えたりで大忙し。
 いつもは無口なSさんも、ベッドの位置を気にして何度も訪室するスッタフに笑顔で「きれいに、見えてるよ・・・・」
 
私達の病院に入院している超高齢の方やターミナルケアの方々にとっては、一日一日は砂時計の砂が落ちていくように終わりに向かっていく日々です。その方々にとってはこれが最期の花火になるのかもしれないのです。
 夜空に花開く花火のその儚さと華やかさが今を精一杯生きている人の命の輝きに重なって感じられました。

 私がターミナルケアに強い関心を持ったのは、私が31歳の時に、61歳の父が癌で亡くなったこと、その数年後自分自身が癌の疑いで入院したこと、の二つが大きく影響しています。
 私は作家の柳田邦男氏の言われる、バーチャルではあったけれども「一人称の死」娘としての「二人称の死」そして医師としての多くの患者さんを看取ってきた「三人称の死」を経験したことになります。
 その中で強く感じてきたことは、「命」の持つ恐ろしいまでの「公平さ」でした。地位も財産も年齢さえ関係なく人には「死」が訪れます。それは神様が気まぐれにカードを引いているのではとさえ思える程です。
 
  けれども、命の一回性を認識し、やり直しのきかない人生のその貴重さに気がつくことで、人は死に向かって成長していきます。小さな子供でさえ、みるみる心 が成熟し、死への恐れを意識しながらもその中で周りを気遣う心や感謝の心を遺してくれます。それはまさにE.キュブラー・ロスがその著書「死ぬ瞬間」で述 べているように。
 
 死に向き合う姿は、学歴や地位などとは全く関係なく、ましてや時間の長さと関わりなく、その人がどのように生きてきたかとぴったりと重なり合います。その意味でも、命は恐ろしい程公平だなと感じます。命の価値は長さではなく、どう生きたかなのです。
 
 病名を知りながら淡々と、自分のしたいこと(庭いじりやささやかな旅行)を続けながら闘病されたOさん。出血が止まらず下血が続く中で、排泄介助をする看護師に必ず言ってくれたユーモラスでさえあった「ありがとよ」
 ほとんど食べられなくなったのにもかかわらず、プランターのトマトを心底美味しそうに食べた農家のSさん。どれほど苦しくても、ひとことも愚痴をこぼさず、静かに静かにすごされた日々。
 
 人それぞれの大切な人生、その人生の輝きの一瞬にわずかなりとも関わること、それは美しい花火が夜空に散る様を心に刻みこむように、私の心の中で永遠の輝きとしていくことなのだろうと思っています。それが私自身のターミナルケアに関わる思いです。
 儚くて美しいから人が花火に惹かれるように、尊くて美しいから私は命と関わり続けるのかもしれません

Copyright(c) 我妻病院

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